方丈記

方丈記

およそ物の心を知れりしよりこのかた、四十あまりの春秋をおくれる間に、(3)世のふしぎを見ることやゝたびたびになりぬ。いにし安元三年四月廿八日かとよ、風烈しく吹きてしづかならざりし夜、戌の時ばかり、都のたつみより火出で來りていぬゐに至る。はてには朱雀門大極殿、大學寮、民部の省まで移りて、ひとよがほどに、塵灰となりにき。(2)火本は樋口富の小路とかや、病人を宿せるかりやより出で來けるとなむ。吹きまよふ風にとかく移り行くほどに、扇をひろげたるが如くすゑひろになりぬ。遠き家は煙にむせび、近きあたりはひたすらほのほを地に吹きつけたり。空には灰を吹きたてたれば、火の光に映じてあまねくくれなゐなる中に、風に堪へず吹き切られたるほのほ、飛ぶが如くにして一二町を越えつゝ移り行く。 

 

(1) いにしを現代語訳せよ。

(2) 下線部を和訳せよ。

(3)   世の不可思議につきて詳述せよ。